ノーベル物理学賞受賞者ディラックの論文


ディラック 量子力学
( 第四版 )

T 重ね合わせの原理

1. 量子論の必要

原子の現象はニュートン力学では、表現できない。新しい物理学が必要である。 観測精度には限界が存在する。

光子のかたより

光子のかたよりを考える。実験で知られていうように、直線的に偏った光を用いて光電子を放出させると、電子が特によく飛び出す方向がある。結晶に光子を一つ入れた場合、吸収されたり、通り抜けたりするが、その過程は人知を超えてるように思える。電気石の結晶に光子を一つ当てて、それを観測すると、光子が光軸に対して平行か垂直に偏っているかを観測するこのなり、この観測が影響して、光子を完全に平行か垂直に偏っている状態に追いやってしまうことになる。

光子の干渉

光子の運動量はアインシュタインの光電法則により決まる。光子の干渉は量子力学では、どう述べられるか。結晶の例で、光子は結晶内で二つの状態の重ね合わせと考えられる。二つの状態の一つを観測で確定したら、他の状態はどうなるのか、他方の状態の可能性はなくなるだろう。このような方針で光の粒子性と波動性の調和を量子力学はもたらすことができる。このようなことは、最近の理論によれば光子だけでなく、広く物質にも適用される。

重ね合わせと不確定の性質

ここまでの主張が奇妙で納得ができない人がいるかもしれないが、物理学は、基本法則が内部に矛盾を含まないものを明らかにすること解釈をすればよい。前の主張が何の役に立つのかについて:古典物理では決定論的だったのが、量子力学では表現が複雑になった。しかし、状態の重ね合わせが問題を簡単にしてくれるので帳消しである。任意の原子を考える。微小過ぎて決定論的には考えることはできない。光子に関しては、前に指摘した通り状態の重ね合わせで表現できる。体系状態とは、掻き乱されない運動と定義できるだろう。量子力学の重ね合わせの原理について明確な一つの状態にある場合は、複数の状態の重ね合わせと見なしてよい。

 逆に無数の状態でも重ね合わせると一つの新しい状態が生ずる。
 これは、一つの波をフーリエ変換で分解するのに似ている。各状態に“重み”―状態の優先度―の概念を考える。振動する弦や膜は、波の1次方程式に従うから、重ね合わせの原理が成り立っている。この類推から、量子力学は“波動力学”と呼ばれるようになった。

2. 重ね合わせの原理の数学的な定式化

 新しい物理学、量子力学の形式化を行う。この形式が正当たるかは、自己矛盾がないことと、実験結果に合うかどうかで決まる。この形式を作りあげる手始めとして、ある一つの時刻のでの力学系のいろいろな状態の間の数学的関係を取り扱うことにする。いくつかの状態を、何か適当な方法で加え合わせれば新しい状態が生じるであろう。加え合わせるものは、加え合わせた結果が同じ性質のものと、ならなければならないが、これにはベクトルが最も分かり易いだろう。たいていの力学系に適用するには、普通のベクトルでは、一般性がたりないので、量子力学では無限要素のベクトルを採用する。量子力学用ベクトルには、特別な名称があると便利である。そこでケット・ベクトル「|>」を導入する。例えば、対象Aのケット・ベクトルを「|A>」と表す。ケット・ベクトルは複素数を掛けたり、また互いに加え合わせることができる。
例えば、|A>と|B>から

c1|A>+c2|B>=|R>

あらゆる値を取るパラメータxに対して

 ∫|x>=|Q>

などとできる。

 従属しているケット

あるケットが、他のいくつかのケットの1次結合で表すことができるとき、そのケットは、いくつかのケットに従属しているという。

 独立しているケット

逆に、1次結合で表すことができないとき、独立しているという。
(( 管理人注記:このような、曖昧で具体性が全くない定義は数学的には無効であり、最大限に好意的に解釈して何も言っていない。 ))

 ある特定時刻の力学系のどんな状態も、それぞれが一つのケット・ベクトルに対応している。

 対応の仕方は次のようである。
 状態がいくつかの状態の重ね合わせの結果生ずる場合には、対応するケット・ベクトルも、いくつかの状態に対応するケット・ベクトルの重ね合わせとして表せられる。そして、この逆も成立する。

 重ね合わせの原理を数学的にまとめ上げる為には、もう一つの仮定を導入する必要がある。ある状態|A>に、それ自身を重ねても、元の状態が現れるにすぎないという過程である。式で表せば、
c1|A>+c2|A>=(c1+c2)|A>  式(5.1)となる。 

3. ブラ・ベクトルとケット・ベクトル

( P.24 7行目から省略なしの全文 )
 いま、あるケット・ベクトルに対する数φがあるとする。
 |A>に対して一つの数φが対応し、またそれは、1次関数とする。 この意味は、|A>+|A’>に対応する数は、|A>に対応する数と|A’>に対応する数の合計であり、cを任意の定数としてc|A>は|A>に対応する数のc倍である。すると、どの|A>に対応する数φをとっても、それは|A>と何か新しいベクトルとの積とのスカラー積と見なすことができる。
つまり、ケット・ベクトルを|A>の1次巻子の一つ一つに対して、この新しいベクトルが一つずつ存在することになる。φをこのように見なして良いという根拠は、後に分かることであるが(式(5)および式(6)を見よ)、新しいベクトルは、それらを互いに加え合わせたり、それらに数を掛け合せたりすることができて、その結果同じ種類に属する別のベクトルを生ずるからである。これらの新しいベクトルの定義に用いられているのは、もちろん、元のケット・ベクトルとのスカラー積を作ったときに与えられた数になるということだけであるが、これらベクトルについて数学的な理論を作り上げてゆく上にはこの定義だけで十分である。
( 全文掲載 終わり )

 このベクトルのことをブラ・ベクトルあるいは単にブラと呼び<|と表す。例えば、対象のBケット・ベクトルを「<B|」と表す。
 単独の<B|や|A>を不完全な括弧(ブラケット)と呼び、<B|A>を完全な括弧(ブラケット)と呼ぶ。
(何の根拠もなしで)こうして次の規則を得る。:完全な括弧(ブラケット)式は、全て数を表し、不完全な括弧(ブラケット)式は、全てベクトルを表す。ただし、どちらの部分をとるかに応じて、そのベクトルはブラまたはケットとなる。

 <B|と|A>のスカラー積が|A>の1次関数であるという条件を、記号で書けば、下式となる

<B|(|A>+|A’>)=<B|A>+<B|A’>      (2)

<B|{c|A>}=c<B|A>  c:定数        (3)

全ての|A>に対して
 <P|A>=0ならば、<P|=0である。
 ここまでの話では、<B|A>=定数cであること以外には、<B|と|A>の間には何の関係もない。

 そこで、次の様な仮定を設ける。
 ブラとケットの間には、1対1の対応がついていて、|A>+|A’>に対応するブラは、|A>に対応するブラと|A’> に対応するブラの和であり、c|A>にに対応するブラは、|A>に対応するブラのc~倍だあるものとする。ただし、c~はcの複素共役とする。
(( 管理人注記:例えば、|A>=[2,3+4i,5−2i]として、<A|A>=6−3iを満足する<A|の要素の組み合わせは無数にあることは、少し考えれば分かる。従ってこの仮定は無効または、正しくない。 ))
 以降は、|A>に対応するブラを<A|と同じ記号を用いることにする。

 ブラ<A|やケット|A>の各要素は複素数である。しかし、これらは特別な種類の複素数なので、実数部分と虚数部分に分離することができない。
というのは、ブラとケットは異なる性質を持つベクトルだからである。
この差異に注意してもらう為に、普通の複素数に対しては複素共役を、ブラとケットには共役虚という言葉を用いることにする。

(( 管理人注記:<A|=[a1,a2,a3], |A>=[ a’1,a’2,a’3] {a, a’は複素数}とすると、<A|A>=a1 a’1+a2 a’2+a3 a’3=複素数cとなる。 ))
(( [ a’1,a’2,a’3]に対応した[a1,a2,a3]の組み合わせは無数にあるので一意には定義できない。 ))
(( 先に示した通りブラとケットは1対1対応ではないので、共役虚は1意には決まらない。 ))
 ブラ・ベクトルとケット・ベクトルには、1対1の対応があるから、ある特定の時刻の力学系の、全ての状態を、ブラ・ベクトルの方向を用いて指定できる。ケット・ベクトルの方向を用いるのと少しも変りがない。
実際、理論の全体で、ブラとケットについて対称に作られて行くのである。次の式、

<B|A>=[<A|B>]~ (~:複素共役数であることを示す。)    (7)

また

 <A|A> >0                       (8) 

が常に成り立つと仮定する。 
直行ベクトル ブラとケットの順番を入れ替えると複素共役数になるという話をした、こういう訳で、ブラやケットの空間について、ある意味で垂直なベクトルというものを考えることができる。これは普通の空間での垂直なベクトルの考えを一般化したものである。
<A|B>=0の場合、<A|と|B>は直交しているという。

 ベクトルAの長さは、<A|A>という正の数の平方根として定義される。

 ブラやケット・ベクトルを作った場合、方向だけが決められているわけであって、任意の数因子だけの不定さがある。この数因子を、ベクトルの長さを1となるように選ぶ手続きを規格化と呼ぶ。

 規格化されたベクトルには、まだ完全には定まっていない。なぜなら、絶対値1の数、つまり、γを実数として、Exp(iγ)という数を掛けても、その長さが変わらないからである。このような数を位相因子と呼ぶことにする。

о 上に述べたいくつかの仮定により、ある特定時刻の力学系の状態の関係について、完全な形式が整った。これらの関係は数学的な形で表れているが、その中には物理的条件が含まれている、そして理論を発展させると観測に関係した言葉を用いて表せられる結果が導かれるのである。

U 力学変数とオブザーバブル1次演算子

 こんどは、ケット・ベクトルを考える。
ケット|F>がケット|A>の関数であるとする。さらに、この関数は1次関数であるとし、ここでは演算子αで表す。
|F>=α|A>                (0)
演算子αは必ず左側に置くという規則にする。

演算子の条件は次式で表せられる。
 α{|A>+|A’>}=α|A>+α|A’>    }

 α{c|A>}=cα|A>          }    (1)

ある1次演算子をどんなケット・ベクトルに施した結果も全て与えられている時には、この1次演算子は完全に定義されているものと見なす。

 演算子は次の性質を満たす。
 α、βを演算子とする。

{α+β}|A>=α|A>+β|A>            (2)

{αβ}|A>=α{β|A>}
ただし、α{β|A>}≠β{α|A>}となるはずである。

αβ=βαのとき、αとβは交換するという。

о 積として意味を持つものが、もう1種類ある。
|A><B|のように、ブラとケットの位置を逆にしたものである。
この積を調べる為に、任意の|P>を右側から掛けてみると、
|A><B|P>=|A>c となる。
同様に任意の<Q|を左から掛けると、
<Q|A><B|=c<B| となる。
こういう訳で、|A><B|は1次演算子と見なすことができる。

 以上により、ブラ・ベクトルとケット・ベクトルおよび1次演算子に関する完全な代数的形式ができ上った。

 ブラ、ケット・ベクトルの物理的意味については、既に仮定を設けて、これらのベクトルの方向が、ある時刻の(全ての)力学系の状態に対応するとした。
さらに、1次演算子は、(その力学系の)その時刻の力学変数に対応すると仮定を設ける。
力学変数というのは、座標や速度の成分、運動量や角運動量、及びこれらの関数である。

4. 共役の関係

 上に述べた1次演算子は複素量である。この1次演算子は、力学変数、座標や速度に対応するはずである。
そこで実数の力学変数に対応する1次演算子はどんな種類であるか調べる為に理論をもう少し発展させる必要がある。

 <P|αに対して、共役虚なケットを考える。|P>がその求めるものとした場合、をαに対するアジョイントと呼ぶ。
第I章の公式(7)で、

<B|A>=[<A|B>]~ (~:複素共役数であることを示す。)    (7)


<A|の代わりに<P|αと置き、|A>の代わりにその共役虚の|P>と置いてみる。その結果は

である。
これは、任意のB、P、αに対して成り立つ公式であって、アジョイントの性質の中で最も多く用いれれる。
(4)でαの代わりに、α[-]を置くと

となり

よって

であると結論される。
従って、1次演算子のアジョイントのアジョイントは、元の1次演算子である。

(( 管理人注記 ))
U章7の式、
|F>=α|A>                (0)
から、1次演算子αはベクトルをベクトルのままにすることと、式
{α+β}|A>=α|A>+β|A>            (2)
{αβ}|A>=α{β|A>}
から、線形性があることが分かるが、それ以外の具体的な情報や例示が全くなく、何も分からない。
(0)式と(2)式から、αは|A>の各要素に対して何か変換をする関数だろうか位しか分からない。
(( 注記終わり ))

5. 固有値と固有ベクトル

1次演算子の理論の発展

ここで1次演算子の理論を発展させる必要があるが、要点は次の式を研究することである。

α|P>=a|P> a:通常の数 (10)

α:確定
aとP:未確定  とする。
方程式(10)を満足するように、それらを選ぼうとするのである。
当然、次の式も考える。

<Q|α=b<Q| b:通常の数 (11)

これらに対して、特別な言葉があると便利である。そこで、(10)式が満足されていれば、
a :1次演算子αまたは力学変数の固有値

|P> :1次演算子αまたは力学変数の固有ケット
と呼ぶことにする。
さらに、固有ケット|P>は、固有値aに属するということにする。

c:任意の数

cα|P>=ca|P> a:通常の数 (11.5)

が成立する。
(( 管理人注記:ここまでで、αはベクトルに左から作用し、ベクトルの方向を変えない何等かの関数という情報しかない。 ))
(( (10)式を常に満足するaは、a=α以外にないと考えられるが ))
(( αが「a=α」などと単純に表せることができないものだと言いたいのならば、αの具体的な形、内容、性質、その他を詳細に示すべきだ。 ))

 独立関数の場合

 例えば、(10)の解が、|P1>、|P2>、|P2>…と複数あり、そのいずれもaという同じ値に対して成り立っている、しかもケットPは独立である場合。

c1、c2、c3、…を任意定数として

c1|P1>+c2|P2>+c3|P2>…

も明らかに(10)の解とである。
1次演算子αがただの数kの場合
この場合に、(10)式でα=kとなり、どんな|P>にも、この式は満足される。

固有値と固有ベクトル

固有値が実数ではない理論は量子力学には、あまり用がない。それ故これからは、1次演算子として実数に限定するこにする。
αの代わりに実数1次演算子としてξを使うと次式となる。

ξ|P>=a|P> a:通常の数 (12)

<Q|ξ=b<Q| b:通常の数 (13)

これらから、三つの重要な結果が導きだされる。

 (@) 固有値は全て実数である。
 証明:(12)に<P|を左から掛けると、
<P|ξ|P>=a<P|P>
となる。

ところが(4)で<B|の代わりに<P|として、αの代わりにξとすると、
<P||P>=
<P||P>=<P|ξ|P>=
上式の第2式=3式から、<P|ξ|P>は実数となる。

 (A) 固有ケットに伴う固有値は全て、固有ブラに伴う固有値と同じである。 ( 解説は1文字もない )
 (B)任意の固有ケットに対して、共役虚なベクトルをとれば、それは同じ固有値に属する固有ブラになっている。また逆も成り立つ。

この最後の結果(B)があるので、ある状態が固有ケット、または共役虚な固有ベクトルに対応していれば、それをその実数の力学変数ξの固有状態と呼ぶのが、合理的である。

(( 管理人注記:ここまでを、もう一度復習すると、
 |P>は要素が複素数のベクトル。
 |P>に対応した<P|が一つだけ存在し、<P|P>は実数になる。
しかし、<P|は無数の組合わせが可能であり、<P|P>は一般には複素数となる。
分かり易く言えば、主張は全て根本から、正しくない、それを発展させることは無条件に正しくない。 
当然、「独立したケット」、「固有ケットと固有値」なども、根本概念が未確定または正しくないので、これらも無条件に正しくない。 
上の三つの結果、(@)、(A)、(B)についても同様。
 注記終わり ))

新しい記号表現

ξが実数の力学変数のとき、その固有値をξ’、 ξ’’、 ξ’’’などと表す。
従って、単独文字ξを実数の力学変数、文字にプライムや添え字を付けたものは、ただの数、すなわち、演算子氏ξの固有値を示すものとする。
 例えば、  |ξ’>
は力学変数ξの固有値ξ’に属する固有ケットを示している。
力学変数ξの固有値ξ’に属する固有ケットが複数の場合は、|ξ1’>、|ξ2’>、|ξ’3>などと表す。

定理

ある実数の力学変数の異なる固有値に属する二つの固有ベクトルは直行している。

(( 省略 ))

6. オブザーバブル

導入

ここまで、沢山の仮定を設けて、量子論では、状態と力学変数とを数学的にどのように表せば良いか定めてきた。
これらの仮定は、それだけでは自然の法則ではないが、さらにいくつかの仮定を設けて理論に物理的解釈を与えてやれば、自然の法則となるのである。
さらに仮定を設ける際には、観測の結果と数学的形式の方程式との間に明確な関係を構築する必要がある。

力学系の測定と固有値

さて、この理論を物理的に仮定をいくつか設ける。
力学系が実数の力学変数ξの固有状態で固有値ξ’に属する状態であれば、ξを測定すると、その結果は確実にξ’という数が得られる。
逆に実数の力学変数ξを測定すると、(いくつかの可能性の内)確実にある特定の結果が得られる状態に体系があれば、この状態はξの固有状態であり、その測定の結果は、この固有状態が属しているξの固有値になる。

力学系の測定と固有値 続き

(P.47の15行目からほぼ全文を掲載)
実際の力学変数ξを測定すると、測定により力学系は掻き乱されるので、体系の状態は急変する。
物理現象の持つ連続性の性質から考えて、第一の測定の直ぐ後に、同じ力学変数ξを観測すれば、第二の測定結果は第一の測定結果と同じに違いない。こういう訳で、第一の測定の行われた後の第二の測定結果は少しも不定さがない。
故に、第一の測定の行われた後には、その体系は力学変数ξの固有状態にあって、その属する固有値は、第一の測定の結果に等しいのである。この結論は第二の測定が、実際に行われなくとも、やはり成り立っているはずである。
こうして見ると、測定をすれば常に、その力学変数の固有状態へ体系を飛び移らせることになる。ただし、その固有状態の属する固有値は測定の結果に等しいものである。

 このことから考えて、どんな状態にある力学系についても、実際の力学変数を測定して得られる結果はどれも固有値の中の一つであると結論される。逆に固有値はどれでも、その体系の何かある状態について力学変数の測定をするときに、結果として得られる可能性のあるものである。というのは、もし、その状態がこの固有値に属する固有状態であれば、測定の結果は確かにその固有値になるからである。これで固有値の物理的意義が明らかになる。実際の力学変数の固有値の集まりは、その力学変数を測定したときに得られる可能性のある結果にほかならず、固有値の計算はこの理由から大切な問題である。
( 全文掲載 終わり )

新たな仮定の導入

(P.48の8行目からほぼ全文を掲載)

新たな仮定を導入する。

ある特定の状態にある体系について、ある実際の力学変数ξを測定すれば、その結果、体系は様々な状態へ飛び移るが、その様々な状態は、元の状態がそれらと従属の関係にあるものである。
ところで、体系が飛び移れるこれらの状態は全てξの固有状態であり、従って元の状態はξの固有状態に従属しているわけである。しかし、元の状態としてはどんな状態をとっても良いから、どんな状態でもξの様々な固有状態に従属していると結論できる。
状態の完全な組というものを定義して、どんな状態をとっても、その組の中に従属しているものとすれば、結論は次の形に纏められる。−ξの固有状態は完全な組を形作る。
( 全文掲載 終わり )

オブザーバブルの定義

実際の力学変数ならば、全て完全な組を作るに足りるだけの固有状態を持つ訳ではない。固有状態が完全な組を作らぬようなものは、測定できる量ではないのである。
力学変数が測定にかかる条件は、実数であることと、固有状態が完全な組を形作ることである。
この条件を満たす力学変数をオブザーバブルと呼ぶ。
従って、測定できる量ならば、それはオブザーバブルである。

オブザーバブルに対する疑問

次のような疑問が起こる。
オブザーバブルであれば全て測定できるのか?答えは理論的には、その通りである。
実際問題としては、ある特定のオブザーバブルを測定する装置を工夫するのは、極めて困難か、或いは、高度な実験者でも不可能かもしれない。
しかし、理論上では常に測定を行うことができると想像して良い。

オブザーバブルの数学的条件

ξの固有値は(有限か無限の)飛び々の数の組から成り立つ場合と、ある範囲の連続した数の場合がある。
先の場合、ξの固有状態に従属している条件は、任意のケットがξの固有ケットの和で表せるという条件になる。
後の場合、|P>はξの固有ケットについての積分

と表せられることもある。

ξの固有状態が完全な組を作るという条件:
任意のケット|P>に対して、ξの固有ケットの積分プラス和として表すことができる。つまり

|ξ’c>、|ξ「r」d>は全てξの固有ケットであり、目印c、dはξ’とξ「r」が等しい場合に区別する為に書き入れた。

オブザーバブル条件満足の確認

 ある特定の実際の力学変数が、オブザーバブルである条件を満たしているか数学的に決めるのは非常に難しい。
なぜかというと、固有値と固有ベクトルを見つける問題全般が非常に難しいからである。
しかし、実験的根拠から、ここで考えている力学変数が測定できると信じて良い場合があり、このことは数学的証明はなくても、その力学変数はオブザーバブルであると仮定しても無理はない。この仮定は理論をこれから展開する場合しばしば使われる。
例えば、力学系のエネルギーは常にオブザーバブルであると仮定することにする。
実は、簡単な場合を除いては、上の仮定は現在の解析力学では証明できないことなのだが。

連続固有値

 今までは、離散的固有値を扱ってきたが、これだと実際上のほとんどの問題に対して、この理論は無力である。そこで、条件を緩めて、連続固有値も認めることにする。

これ以後について

ここまでの話が根源的基礎となり、理論が展開して行くが、最後までこんな調子で話が進むので、以降は重要な部分を除き大幅に省略していくことにする。

7. オブザーバブルの関数

( P54 8行目からほぼ全文を掲載)
 kを実数として、
ξ|ξ’>=ξ’|ξ’> を満足していれば、
kξ|ξ’>=kξ’|ξ’> も成立する。
これは、kξを測定すれば、確実にkξ’という結果が得られることを示している。
 もっと一般的にいえば、ξの任意の実関数をとり、それを例えば、f(ξ)とする。そしてこれはξが測定されるたびに自動的に測定されるような新しいオブザーバブルであると考えてよい。というのは、ξの値を実験的に決定すればそれで、f(ξ)の値も与えられるからである。
さらに、f(ξ)が実数であるという制限は不要なのであって、実数でない場合には、この関数の実数部分と純虚数部分とが二つのオブザーバブルであり、それらはξを測定すれば自動的に測定される。
理論が矛盾を含まない為には、ξを測定すれば確実にξ’という結果を与えるような状態に体系がある時は、f(ξ)の実数部分と純虚数部分を測定すれば、その結果は確実にf(ξ’)の実数部分と純虚数部分となることが必要である。

 c0、c1、c2、c3…を定数として、べき級数
f(ξ)=c0+c1ξ+c2ξ^2+c3ξ^3+…
で表せる場合は初等代数を用いて確かめることができる。
一般の関数fの場合に、この条件を確かめるのは不可能なこともあるだろう、その場合は、この条件をf(ξ)の定義として良い。

このような方法でべき級数表現より一般的なオブザーバブルの関数を定義することができる。
一般にf(ξ)の定義としては、ξの固有ケット|ξ’>の全てに対して
f(ξ) |ξ’>=f(ξ’) |ξ’>  (34)
             ( f(ξ’)は実数 
を満足するような1次演算子とする。

容易に分かるように、この定義は、それを独立でない固有ケット|ξ’>に応用した場合にも、内部に矛盾を含まない。
( 全文を掲載 終わり)

方程式(34)は1次演算子f(ξ)を完全に定義するのに十分である。

定義から容易に分かるように、オブザーバブルの関数理論全体はブラとケットについて対称であり、方程式(34)の基にする代わりに
<ξ’|f(ξ) =f(ξ’) <ξ’|  (38)
という方程式を基にして議論ができる筈である。

8. 一般の物理的な解釈

「§10 オブザーバブル」の仮定は、いくらか特別な種類の仮定である。というのは、、これらの仮定は固有状態というものに関連付けなければならないからである。
そこで、固有状態を問題にしていない場合にも、数学的な理論から物理的な知識を引き出せる、一般的な仮定が必要である。

一般の物理的な解釈

古典力学では、オブザーバブルは体系のどんな特殊な状態に対しても常に“ある一つの値を持っている”のである。
量子力学でこれに相当するものは何であろうか?
いま、オブザーバブルξとベクトル<x|と|y>をかってにとる。
それらを用いて
<x|ξ|y>
を作ると、これはただの数となる。
この数をあるオブザーバブルが古典論で“持つ”ことのできる値と比べると、次の三つの理由からあまり似ていない。
@):これは体系の二つの状態(x、y)に関係しているが、古典論では常に一つの状態にしか関係していない。
A):これは一般に実数ではない。
B):これはオブザーバブルξと状態だけでは、一通りには定まらない。というのはベクトル<x|と|y>はかってな数因子を含んでいるからである。

ところが、二つの状態(x、y)として同じものをとり、|y>を<x|に対する共役虚のベクトルとすれば、これら三つの理由は当てはまらなくなる。
この場合、<x|ξ|x>は必ず実数になる。また、<x|が規格化されていれば、一意に定まる。それはcを実数として<x|に数因子Exp(ic)を掛けるとすれば、|x>にはExp(−ic)を掛けねばならず、<x|ξ|x>には変わりがないからである。

確率解釈

( P62 15行目からほぼ全文を掲載)
一般の場合には、あるオブザーバブルがある特定の状態に対してある値を持つということは言えないが、そのオブザーバブルがその状態に対してある平均値を持つということは言える。
さらに、一歩進んで、このオブザーバブルがその状態に対して、ある特定の値をもつ確率というものも考えられる。
 この確率は前の一般の仮定から次のようにして求められる。
そのオブザーバブルをξとし、その状態は規格化された固有ケット|x>に対応しているものとしよう。すると一般の仮定により、ξの平均の値が<x|ξ|x>となるだけでなく、ξの任意の関数を例えばf(ξ)とすると、その平均値が<x|ξ|x>となることもわかっている。
( 全文を掲載 終わり )

9. 交換できる性質と両立できる性質

ある状態が同時に二つのオブザーバブルの固有状態になっていることがある。この状態がケット・ベクトル|A>に対応し、二つのオブザーバブルがξ及びnであるとすれば、次の方程式が得られる筈である:

( ξ’及びn’は、ξ及びnの固有値 )
こうして、次の式が導き出される。

すなわち

この式を見て直ぐに想像されるように、同時に二つのオブザーバブルの固有状態になるものが存在する見込みが一番ありそうなのは、ξn−nξ=0となって二つのオブザーバブルが交換すときだけである。
交換しない場合でも、同時に固有状態になるものが、有り得ない訳ではないが例外的である。
他方、二つのオブザーバブルが交換すれば、同時に両方の固有状態となるものが、完全な組を作る数だけ存在する。これは次に証明する通りである。